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「生きるリアリティ」を感じてほしい
インタビュー 2016年3月31日

「生きるリアリティ」を感じてほしい

立花 貴

2015年夏、宮城県雄勝(おがつ)地区にある築91年の廃校が、こどもの複合体験施設「モリウミアス(森と海と明日へ)」としてよみがえります。仙台から車で2時間。アクセスは決して良いとは言えないこの場所に、施設の改修作業を手伝おうと日本全国だけでなく海外からも、これまで2,500人以上が訪れ、新しいうねりが生まれています。雄勝を「グローバルな過疎地域」だと言うのは、モリウミアスを運営する公益社団法人sweettreat 311代表理事の立花貴さん。伊藤忠商事株式会社を退職して自ら起業、東京でバリバリの企業人としてキャリアを積んできた立花さんが現在取り組んでいるのは、人口1,000人という地域での、教育と体験を通した学びの場づくりです。

雄勝での活動について
雄勝や石巻のこどもたちに体験を通した学びの機会をつくっています。漁師と一緒に船に乗って漁業体験をしたり、林業を体験したり、地元の旬の魚介類を使った料理教室をしたり、川登水源探しと漁業体験をつなげ水の循環を体感したり。学習支援も合わせると、これまでにのべ4,000人以上のこどもが参加しています。「体験」を重視しているのにはわけがあります。本来人間には、考えるのではなく「感じて」動く力もあるのではないかと思っています。震災などの非常時には、誰も指示してくれません。平時、有事に関係なく「心の瞬発力」で動くことができるということが大事で、それは体験を通じて培うことができるのではないかと思いました。
例えば、漁師の皆さんの仕事を見ていると、指示というのはほとんどないんです。その場の雰囲気を見て、何が必要か考えたり一番困っている人のサポートについたりして、物事がスムーズに進むための最善の道を探します。そういう姿をこどもが見て体験することで、頭で考えるだけではない、人間本来の力を呼び起こしていきたいと思っています。

今夏オープンする「モリウミアス」は、こどもたちの学びの場?
こどもが学べるというだけでなく、そこに住む大人や外からやってくる人との交流の場であり、雄勝の豊かな食を体験できる場であり、宿泊もできる場です。この施設はまちのシンボルとも言える築91年の廃校を利用しています。震災後に一度は解体することも検討されたそうなのですが、その理由は「思い出の詰まった学校が朽ちていくのを見たくないから」ということでした。それほど愛されている建物なのです。だから、できるだけ原型を留めようと努めました。裏山が土砂崩れを起こしていて校舎内にまで土砂が入り込んでいるような状態でしたから、本当は解体して新しくつくり直した方がずっと楽だったのですが。毎週末、日本全国、海外から、これまで年間2,500人以上の人が手伝いに来てくれました。土砂をかき出し、柱を継ぎ足しました。屋根に使われている雄勝産の硯石を一枚一枚丁寧に磨きました。モリウミアスには、たくさんの人の愛着が手垢としていたるところについています。修繕が終わったから終わり、というものではなくて、常にまちの人の想いとともに進化し続ける「終わらない」場なのです。

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こどもの複合体験施設「モリウミアス(森と海と明日へ)」

なぜ雄勝で活動することになったのか
6年間の伊藤忠商事での勤務を経て、食品流通の会社を起業し、約20年東京で仕事をしていました。東日本大震災の発災時も東京にいましたが、出身が宮城県仙台市なので家族の安否確認のために一旦戻り、顔を見たら東京へ帰るつもりでした。しかし、避難所をいくつかまわり現状を目の当たりにするうちに「このままでは帰れない」という気持ちになって。すぐ前職の仲間に声をかけて水や食料を運んできてもらって配るというところからはじめました。岩手・宮城・福島と色々なところで炊き出しをしていたのですが、ある日雄勝にある中学校の校長先生から相談を受けました。「学校で炊き出しをしてもらえませんか」と。この出会いが雄勝との縁になります。中学校へ給食を届けるなどして支援をしているうちに、先生たちが全く休めていないことに気が付いて、仙台の大学生や塾講師の人に協力を仰いで夏期講習をしたり、放課後支援をしたりといったことに取り組み始めました。今は住民票を雄勝に移しているので、こどもへの支援だけでなく、繁忙期には浜の一員として朝から漁に出て漁師さんを手伝うこともあります。

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立花貴 氏[東北オープンアカデミー・プログラムオーガナイザー/公益社団法人sweettreat311 代表理事]

雄勝に移ってみて東京との違いは
それまで企業人として働いてきましたが、雄勝で日本の地方の現状と言いますか、少子高齢化、過疎化、産業衰退、そういったものを目の当たりにしました。さらに、震災前は約4,000人だった雄勝の人口は、震災の被害と人口流出により1,000人ほどになっています。こうしたことを客観的に見ればマイナスなのですが、そんな中でも、浜のお母さんや漁師さんたちはすごく元気なんです。そこに人間の持つエネルギーを感じたのと同時に、可能性を感じました。ここでひとつずつ小さな事例を重ねていき、たくさんの人に関わってもらうことができたら、もしかしたら何かが変わるのかもしれない、日本の新しいコミュニティや産業創出、学びの形がここから始まるかもしれないと。雄勝では道で誰と車ですれ違っても手を振るし、夜は呼ばなくても人が来るしで、毎日がにぎやかです。雄勝に関わり始めた頃は「なぜこんなにリラックスして過ごせるのだろう」と不思議だったのですが、ある日気が付いたんです。まち全体が家族なのだと。コミュニティ全体がそういう意識だから、誰かが困っていたら自然とみんなでサポートする。そういう関係ってすごく安心感があるし楽ですよね。

なぜ「こども」に焦点を絞ることになったか
2011年に、支援に入っていた中学校のこどもたちが太鼓の演奏を披露しました。日本国内や海外からたくさんの支援をもらったことに対する感謝の気持ちを伝えたいということでした。古タイヤにビニールを巻いた太鼓で一所懸命に練習し、日本全国や海外での演奏会に呼ばれて披露しました。そんな中、ある会で感想を聞かれた中学一年生の男の子がこう答えたんです。「震災後にいただいた支援にたいする感謝の気持ちを伝えるために、魂を込めて叩きました」と。そのひたむきな想いに心を動かされて、こどもは経験によってこんなにも成長するのだなと実感しました。さらに考えたのは、こどもたちが色々な経験をしたり、様々な職業の大人が関わったりすることで、まちがもっと魅力的になるのではないかということです。2011年に中学3年生だったこどもたちは現在高校3年生。この春から大学進学や就職が控えています。sweettreat 311ではインターンを受け入れていますが、僕らのプログラムに参加したこどもが、インターンとして来てくれることを楽しみにしています。かつて自分が体験したプログラムを、今度は運営側で関わっていく。そうした、ぐるっとまわるような循環が出来つつあります。産業をつくることはもちろん大切なことですが、もっと重要なことはそのプロセスにこどもをはじめとしたまちの人たちが関わっていくことだと感じています。

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今回のプログラムの内容は
漁師さんと一緒に漁業体験をしたり、「モリウミアス」の場づくりに関わってもらったり、普段sweettreat 311で実施していることを含め、身体全体で場の持つエネルギーを感じてもらいたいと思います。僕らが雄勝でテーマとしているのは「持続可能な社会をつくる人材を育てる学びのフィールド」。地域、自然、人、コミュニティ、そういったものをベースとして、何もないところから自分で未来を切り開いていけるということが、これからの地域で必要であると考えています。住んでいる地域だけでなくて日本全体、世界へと視座をあげられるような、そうした人材を育むにはどうしたら良いかを共に考えたいと思っています。夜には地元の漁師さんや飲食店の店主さんたちと一緒に、雄勝の食材を使った料理に舌鼓を打ち、酒を酌み交わしながら語り合いましょう。

どういう人が参加すると学びが大きいか
特にこういう人、ということはないのですが、あえて言うなら普通の民間企業に勤めている人でしょうか。現在sweettreat 311では大手民間企業からの出向社員を3人受け入れています。民間企業が株式の関係がない組織に、しかもまちづくりや産業創出というジャンルに出向するということは珍しいことです。それだけこの場に学びがあるということですし、こういう動きはどんどん増えていくのだと思います。もしかしたら東京でずっと過ごしている人には日本の地方がどういうものか、身体全体で感じるとはどういうことか、ピンとこないかもしれません。かつての僕がそうだったように。しかし、おそらくどんなに考えてみてもその答えは出てこないでしょう。まずは考えないで一歩踏み出してほしい。ここでの生活をわずかな時間でも体験することで、感じることや気づきがあると思います。「働くとは何か」「暮らすとはどういうことか」といった、「生きるリアリティ」を感じてほしいと思っています。

東北オープンアカデミーの意義とは
これまで東京や大阪以外の日本の地方というのは、人を送り出す場所になっていました。多くの仕事の機会が大都市に集中していたため、地方に人材が残らないという状況です。サッカーで例えるとフォワードばかりで、振り返ると誰もいないようなものかもしれません。僕も震災がなければ今も東京で仕事を続けていたと思います。しかし働き方や会社の在り方というのが、いま転換期に来ているという、そんな空気を感じています。また、前回の東京オリンピックを境にして日本は大量消費、大量生産する社会へと舵を切り、そこにアジア諸国も続きました。2020年に開催される東京オリンピックにおいては、私たちが世界に何を伝えられるのかが重要になると考えています。僕は、日本の地方や一次産業が元気であること、自然と共存することの豊かさや暮らし方、新しい企業の在り方や働き方、地域や地域に関わる都市部の人たちとの家族や親せきのようなつながりを、提唱していきたいと思います。また、こんなやり方があるのだと事例を伝えたい。そのために、僕らの活動やこの東北オープンアカデミーで一歩ずつ積み上げていけたらと思っています。東北オープンアカデミーは、一極集中の道を進んだ戦後の日本と全く逆の動きにチャレンジしようとしているのではないかと考えています。持続的な産業や地域とはどういうことなのか、僕たちが望む暮らしとは何かを考えるプロセスなのかもしれません。

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立花貴 氏[東北オープンアカデミー・プログラムオーガナイザー/公益社団法人sweettreat311 代表理事]

参加者へのメッセージ
雄勝は楽しいし、刺激的で学びも多いです。僕は20年間東京で働いてきましたが、また雄勝で学びを得られるということに感謝しています。参加者の皆さんには、雄勝で感じたことを持ち帰って自分の働いている会社で提案してみることもできると思います。雄勝で出会う人たちとのつながりは、自分自身からそうありたいと望み行動すれば、この先ずっと続くものとなります。ここでの経験は、いい意味でかなり「ヤバい」ですよ。それだけは約束します。

聞き手:志賀恭子(公益財団法人 地域創造基金さなぶり)

立花貴 | 東北オープンアカデミー・プログラムオーガナイザー/公益社団法人sweettreat311 代表理事

1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学法学部卒業後、伊藤忠商事株式会社入社。6年で伊藤忠を退社し起業。2000年、食品流通関連の株式会社エバービジョン設立。2010年、日本の食文化・伝統文化を発信する会社、株式会社四縁設立し、薬師寺門前AMRITを運営。震災後、様々な支援団体を立上げ活動している。
東日本大震災直後、母と妹の安否確認で仙台へ。その後、震災地での支援活動にあたり10万食の炊き出しを行うほか石巻市立雄勝中学校の給食や学習支援に入る。2011年5月にsweettreat311を設立。石巻市内小中学十数校でアフタースクールや農林漁業体験・IT教室など実施しのべ4,000人以上のこどもたちが参加している。
震災後、東京から雄勝町へ住民票を移し、東京と雄勝間・片道約500Kmの道のりを4年で400往復している。首都圏から企業人や文化人のべ1,300人を雄勝へ連れ、地元住民とともに、教育と産業で日本の新しい町づくり、コミュニティーづくりに取り組むべく活動中。